東京造形大学
環
中澤 彩美 / デザイン学科サステナブルプロジェクト専攻領域
デザイン学科サステナブルプロジェクト専攻は、手法によって分化された専攻ではなく、「世界を持続可能にするためには」という概念による専攻であると解釈し、今回私はデザインではなくアート作品を制作しました。「環(めぐる)」というタイトルには直訳で「Loop」、他に「Cycle」、「Repeat」という意味が含まれています。「Cycle」は、バックミンスター・フラーの著書「宇宙船地球号 操縦マニュアル」から、「あきらかに、この惑星の上の生命のほんとうの富は、未来に向かって作用する、代謝的で知的な再生システムそのものなのだ。」という一文を抜き出し、作品のテーマとしました。彼は哲学者であり、建築家であり、持続可能な世界を実現するための方法を探り続けた人物です。この一文は、フラーの提唱する富の概念のこと、つまり私たちの富はお金ではなく奪い合うものでもなく、人類の本来の富とは太陽光や空気や循環システムなどの、誰にとっても豊富にある自然のエネルギーのことを意味しています。フラーはこうも言っています。「私たちの宇宙船地球号は、船内で生命を繰り返し再生できるように、実に驚くべきデザインとなっている」。そして、フラーによって作られたダイマクションマップをモチーフとして使用しました。ダイマクションマップは「一つの世界大洋の中に大陸の輪郭線が切れないでつながった一つの世界島を示して」います。フラーの「我々は宇宙船地球号の船上員である」という思想が反映されています。「Repeat」は、ミリマリズムの反復させる手法で正三角形を使用しモチーフを配置しました。使用した素材が毛糸と塩というのもシリアルな素材であるためです。大きなピラミッド型の三角形は、ジョン・マクラッケンの「四角形の標準的な建築基盤の最上部、つまり屋根」という意図で作られた作品のモチーフを逆さにして使用しました。「屋根=地球号、私たち生命の住む家」を表しています。塩が暗喩しているのは大地と海、生命の源です。毛糸は地球の循環システムを意味した、身体をめぐる動脈と静脈です。観客がこの作品の中に入ることによって作品が壊れ、溶けて、循環していきます。