卒展レポート

金沢美術工芸大学

第61回 美術工芸学部卒業制作展

無電柱化に伴う地上機器を置き換えた公共用ベンチ

渡邊 奈々重
美術工芸学部デザイン科 製品デザイン専攻

近年、世界的に公共空間の在り方が見直され、歩道空間における人のアクティビティのための空間づくりが注目されている。外の空気を吸いながら、ゆっくり時間を過ごし、友人との会話を楽しむような、とても人間的な街での過ごし方が、自動車を中心とした街では忘れられているのではないだろうか。この研究制作にあたり、金沢市での調査を行なったが、歩いて観光を楽しめる街中に、座って休憩する場が少ないことや、金沢市がWi-Fi環境普及に取り組むも網羅的に配置することが困難で、認知度も低いことが分かった。無電柱化に際し、電力供給のために街中に一定距離間で設置されてきている地上機器が、それを内包したこのベンチに置き換われば、街中にいながら情報収集を行なったり、時間を過ごせる憩いのスペースが連続的に生まれる。これまで通り過ぎるだけであった場所で人々が過ごすようになり、人の存在がさらに人の滞留を呼び、新たな交流が生まれ、街が活気付いていく。このような連鎖が魅力ある街をつくり出し、人々のパブリックスペースで過ごす時間が価値ある大切なものに変わるだろう。この提案がこれからの公共空間の在り方について考えるきっかけとなり、魅力あるパブリックライフが実現すれば幸せである。

作品一覧