卒展レポート

金沢美術工芸大学

第61回 美術工芸学部卒業制作展

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今年も多くの来場者で賑わう金沢21世紀美術館を会場に金沢美術工芸大学の卒業・修了制作展が開催されました。修了展の新たな企画として、期間中にデザイン専攻の大学院生が同館レクチャーホールにおいて修士研究発表会を行いました。展 […]

今年も多くの来場者で賑わう金沢21世紀美術館を会場に金沢美術工芸大学の卒業・修了制作展が開催されました。修了展の新たな企画として、期間中にデザイン専攻の大学院生が同館レクチャーホールにおいて修士研究発表会を行いました。展示作品だけでは伝えきれない2年間の研究プロセスや成果を理解していただくことができました。学部の最終課題となる卒業制作はデザイン科の専攻の教育方針に沿った多様なテーマ設定や表現が求められます。6月頃からスタートし、幾度かの学内審査でコンセプトやデザイン表現が研ぎすまされ、提案性の高いものに仕上がっていきます。今年はサービスデザインやブランディングデザインなど、専攻の領域を横断するテーマや作品が目立ち、社会構造の変化やデザインに期待される領域の拡大を反映していました。また、卒展においても桐山登士樹さんをゲストコメンテーターにお迎えし、3専攻の代表者による卒業制作プレゼンテーションを開催しました。プレゼンターたちは満席の来場者の前で展示だけでは伝えきれない制作意図や苦労した点などをわかりやすく伝えていました。

視覚デザイン(学部 17名 大学院 1名)
毎年、視覚デザインでは卒業制作のテーマが与えられません。今年は、学生生活の集大成ということで、自分の内面にあるものや自分のアイデンティティを源泉とする学生がたくさんいました。そして、そこから社会につながるもの、社会と直接つながらなくても、鑑賞に耐えうるものエンタテイメント性のある作品に消化していくという流れで制作を行っていました。その中でも、とくに印象的だったのは「社会に出てからも、自分発信で制作を続けて行きたい」という、自分自身のこれからの活動の Version 0 を卒業制作として提出した学生も何人かいたことです。ボードゲームやキャラクター、写真作品、アニメーションのシリーズなど、卒業した後も同じフレームで続けて行きたいという意思のある作品は、卒業制作を「終わり」ではなく「始まり」と捉えることができます。それは過去ではなく未来を見据えての制作で、とても希望を感じることができました。

製品デザイン(学部 17名 大学院 3名)
今年の製品デザインの卒業制作のテーマは「0(ゼロ)」です。現在は、様々な技術革新が生まれると同時に格差の拡大やシェアリングエコノミーなど、新たな問題や考え方や行動様式が生まれ、これまで当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが変化しつつあります。その中で様々な物事をもう一度ゼロから捉え直すことにしました。今年の作品は時代の課題を反映した社会的なテーマを扱ったものが多く見受けられました。同時にデザインの中心がサービスやシステムなど、物事の仕組みやユーザーの体験をデザインするという方向に大きく変化しました。展示を見ただけでは理解が難しい内容を、より簡単に深く理解してもらうために学生たちはショートムービーとストーリーブックを作成し、週末には一人ひとりが作品の前で来場者に説明を行うプレゼンテーションを行いました。学生たちが現場に足を運び人々と関わる中で様々な現実に触れ、問題に直面した中から解決案を探り、実証モデルによる試行錯誤の中から得られた手がかりを積み上げ、形とした作品あることを理解していただけたのではないかと思います。

環境デザイン(学部 20名 大学院2名)
「空間視点でデザインできるもの全て」を扱う環境デザイン専攻。人の意識や行為を起点に空間に関わる専門的な知識や技術を基礎とし、多様なデザイン領域を横断して活躍できる人財を育成しています。卒業制作はその集大成として約半年の期間、各自の関心のある分野領域で課題や問いを見つけ、それを解決して可視化することに取り組みます。今年の展示は「20の問い、20のデザイン」をテーマに、20名の学生の日常からの気づきや自問自答に対し彼らなりの答えを示す形式で、とても理解しやすい構成でした。身につける防災用具からランドスケープまでの幅広いスケールにサービスや体験デザインの要素が加わり、自由で多様な視点が金沢美大の環境デザインらしいと思います。緻密な現地調査や検証モデルによってリファインを繰り返したり、ブランディングのリアリティーを高めるためにプロダクトまで制作するなど、作ることにこだわったものが多く見られました。空間デザインが目的ではなく、問いに対する答えを可視化するための手段となる説得力の高い作品が揃いました。

会期 2018/2/23(金)~3/1(木)
時間 10:00~18:00
会場 金沢21世紀美術館 市民ギャラリー
石川県金沢市広坂1丁目2番1号
URL http://www.kanazawa-bidai.ac.jp/

作品一覧