武蔵野美術大学
海は、種の中にある
渡川 いくみ / 油絵学科 油絵専攻
『〈ひと〉は小さな種のよう。
花になって、枯れて、見えなくなっても、
そこにまた種があるように。
見えなくても、聴こえなくても、
見て、聴いていれば、
そこに、
名のない〈存在〉があるように。
〈ひと〉は大きな海のよう。
種からあふれつづける、名のない〈存在〉の中で、
ありのままの波にのって、
〈わたし〉も名のない種でありたい。
〈ひと〉は小さな種のよう。
名のない〈わたし〉があるように。』
上記は作品に添えたテキストです。2011年春からの4年間、無意識の内に、〈ひと〉という存在について考えて続けていたように思います。〈ひと〉は、非常に小さく儚い種のような存在でありながらも、想像や歴史を超えて波打つ海のような存在でもある、美しい生き物です。風の群 回る花 双葉の陰 眠る蛹 滲む土 肌を流れる光 放たれた向日葵 鳥の涙 日の沈む静けさ 月の昇る騒がしさ 通じない川 朽木の白さ 浸かる踝 歩く森 痺れた雨 凍える水……私の周りでは、数え切れない美しい宇宙がふるえていて、小さな〈わたし〉を発露させます。一粒の種が重い土をはねのけて発芽するように、その芽が雪をかぶりながらも開花を待ち望むように、〈ひと〉の心の中に、今、芽生えようとしているものがあれば、きっと交わるものがあると信じています。