大阪工業大学
地震によって損傷を受ける鉄骨建築物の地震応答特性に関する研究
池内 健太 / 空間デザイン学科 構造デザイン研究室
1.序論
1995年に発生した兵庫県南部地震では鉄骨建築物の柱梁接合部において,梁端溶接部に脆性破壊が多数確認された。被害をうけた建物の中には,残留変形が小さく,外観上は被害が軽微だったにも関わらず多数の梁フランジ溶接部で破断が生じていた調査報告もなされている。これは,溶接部の損傷が生じているまま建物が使用されていること,南海・東南海地震が発生した際に倒壊の危険性があることが指摘されている。この問題に対して2012年度から兵庫県,神戸大学および防災科学研究所による共同研究が行われており,建物健全度評価,推定技術の開発と補強工法の提案を目指している。
同研究において,損傷の再現と損傷を受けた鉄骨建築物の振動性状を確認するために3階建ての鉄骨建築物の実大震動台実験が2013年10月に行われた。この実験試験体は1995年当時の仕様で設計され,その設計に大阪工業大学構造デザイン研究室が協力している。本研究では,この実大震動台実験を対象とし,損傷を受ける過程において,どのような振動性状の変化が生じるかを時刻歴応答解析によって把握することを目的とする.解析には図2に示す一般的な振動解析モデルである質点系モデルを用いる。
2.入力地震波
地震波には兵庫県南部地震で観測されたJR鷹取波は南海トラフ巨大地震を想定した想定南海波を用いている。
3.解析モデル
解析モデルは3質点系等価せん断型モデルとし,復元力特性は標準型とする.減衰は一次モードに対してh=2%とし,初期剛性比例型とする。解析モデルには損傷の進展は考慮しない。
4.考察
・設計モデル:材料強度に公称値を使用
・修正モデル:材料強度はミルシートによる
・損傷モデル:損傷箇所をピン接合とする
これらを実験結果と比較する。設計モデルと修正モデルでは実験結果に対して設計モデルだと相関が低いが,修正モデルは材料強度が実際に用いた鋼材の値であり,比較的相関が良い。修正モデルは試験体の損傷が進むに従い,相関性が低くなっている。破断が生じてからは解析によって実験の挙動を追跡できていない。実験結果に対して,修正モデルだと相関が低いが,損傷モデルだと比較的相関が良い.損傷モデルで,実験結果に対して比較的良い相関で挙動を追跡できている。
5.結論
修正モデルのように実際の材料強度を設定することが出来れば実験の挙動を追え,損傷モデルのように損傷を受けた接合部をピン接合に設定すると挙動を追えることがわかった。このように一般的な質点系の解析を行い,様々な条件を考慮することで,損傷を追跡することができた。