武蔵野美術大学
文字を書く、線を探る
鎌村 和貴 / 大学院 デザイン専攻基礎デザイン学コース
文字を書くとは何なのか。書と関わり23年が過ぎた今でも分からない。
文字の形や言葉の意味、紙の範囲、書の概念、それらを一旦消してみたいと思った。「書く」ことに「学生」最後の全てかけてみたいと思った。
この作品はまず、巨大な紙を小さな部屋で制作することから始まっている。その中で紙を広げ、伸ばし、丸め、回し、また広げ、書く場所を探す。この紙の上に私の身体全てを預け、文字を書くため這いずり回り、紙が破れ、補修し、また書く。内容は外の音や声、新聞や本の記事、思考、出来事など。全てこの紙の上で見つけている。書くことを一つ見つけ、向き合い、そして書いたら忘れる。重要なことは「書く」という「行為」そのもの。内容ではない。
文字を書くこと、いい文字やいい線を探すこと、時間と身体全てを預け、この作品と向きあったが、実感として今私に残っているものは限りなく少ない。それは「書く」という「行為」は、とても難しいということ。それは苦しいものだった。「当たり前の行為」としてやり過ごせるものではない。文字を書くというのは、決して、当たり前ではない。それが分かった学生の終わり、私は次の場所へ行ける気がしている。