武蔵野美術大学
席を譲るもの Making room for the next
満嶋 紗季 / デザイン情報学科
これは、植物は枯れることでその機能を徐々に失っていくランプシェードだ。
思い通りにならず、不便で煩わしい思いをさせられる。しかしこのプロダクトの価値は、使い心地の良さなどのユーザビリティではなく、枯れゆくランプシェードと生活を共にする体験にある。植物が枯れ、プロダクトとしての機能を失ったとき、使用者の心に愛おしさや寂しさ、煩わしさが芽生えるだろう。この感情が存在するために、植物は枯れ、席を譲ってくれる。ものの価値は、その人にとってのメリットだけに従うわけでは無い。どれだけ愛おしく思えるかどうかも関わってくるであろう。その考え方を生活の中で体験できる装置として、この作品を制作した。
この作品は、エマニュエル・レヴィナスの「始原の遅れ」という概念に集約される。
"人間は何も無いところにぽこっと誕生したわけではなく、誰かが自分の場所を空けてくれたので、そこにできたスペースに存在することができた。私がここに存在するために、それ以前にそこに居た何かが姿を消した。その「もう存在しないもの」が、私たちが生き、存在することを可能にしてくれた。"(講談社「日本の文脈」 内田樹 著より引用)
これは、どんな物事にも価値を見い出し、それを享受し、感謝しながら生きることができるものだと考えている。
この枯れてしまうだけの装置に始まり、様々な悲しみや苦しみ、あらゆるマイナスの出来事に対して、受け身になるだけではなく、どんなものであっても、対峙した時に価値を見い出して欲しいという願いを込めて、卒業制作とする。