「眺める」卒展から、「楽しむ」卒展へ。
卒業制作展といえば、キャンパスを会場とした学内展が主ですが、最近では学外展示を行う学校も増えています。学外展には優秀作品を集めた選抜展示、学科や専攻ごとの展示、学生有志での展示などがあり、それぞれ趣向を凝らした卒業制作展となっています。美術大学の多くは都心から離れた場所にキャンパスを構えているため、学内展に気軽に足を運べない方も多いのではないでしょうか。その点アクセスの良い場所で開催する学外展は、より多くの人に作品を見て貰うチャンスでもあります。
2011年2月11日から14日にかけて、BankART Studio NYK(横浜)を会場に「女子美スタイル☆最前線2011」が開催されました。2008年にスタートした「女子美スタイル☆最前線」は、女子美術大学・短大・大学院の全学科・専攻・コースからの選抜作品展です。「女子美スタイル☆最前線」と他校の選抜作品展とでは、作品の選出方法に大きな違いがあります。選抜展の多くは、指導教員が担当領域の中から作品を選抜しますが、「女子美スタイル☆最前線」は学科を越えて教員のキュレーターチームを結成し、広い視点から作品が選ばれます。また会場全体をひとつの展覧会としてコーディネートするため、学科ごとの作品を同エリアにまとめることはしません。例えば建築作品の隣に映像作品が、その隣に版画作品が展示されるなど、ジャンルを超えた作品配置がされています。
「女子美スタイル☆最前線」では、展覧会を盛り上げるイベント企画にも力を入れています。作品を観覧するだけでなく、来場者・出展者ともに会場全体で楽しめる工夫がされていました。オープニングイベントでは、清水靖晃&サキソフォネッツの生演奏をバックに、女子美術大学学長の佐野ぬい氏がライブペインティングを披露しました。佐野氏のアトリエをイメージしたステージで、軽やかに作品が描かれていきます。画家として独自の道を歩み続ける佐野氏は、同じ道を志す者として、また同じ女性としても学生たちの憧れです。佐野氏の制作風景を一目見ようと多くの人が詰めかけ、イベントエリアは熱気に包まれました。
また、展示作品から更に優秀作品を選出する「JOSHIBI rainbow award」も設けられています。ゲスト審査員を招いての審査が行われ、授与式も開催されました。学内の関係者だけでなく外部のゲストから評価を受けることは、生徒たちのモチベーション向上にも繋がるのではないでしょうか。今年の審査員は、以下の7名です。
【ゲスト審査員】
葛西薫(アートディレクター)/曽我部昌史(建築家)/小山登美夫(小山登美夫ギャラリー)/KIKI(モデル)/佐野ぬい(女子美術大学学長)/横山勝樹(女子美術大学教授)/杉田敦(女子美スタイル総合キュレーター/女子美術大学教授 )※順不同、敬称略
各審査員が1点ずつ選出し、計7作品がrainbow awardに選ばれました。なかでもKIKI賞に輝いた野田桐子さんの「いくらえのぐ」は、展示会場でも注目を集めていました。この作品は、いくらのような粒をぷちぷちと潰しながら、絵筆を使わず指で描く絵の具です。チューブや固形の状態の絵の具が一般的ですが、見たことのない新たな形に生まれ変わりました。「絵を描く楽しさを伝えるプロダクツとして、今後がとても楽しみな作品」と、審査員のKIKIさんからも高く評価されています。
展示全体の傾向としては、緻密な作風が多く見られました。その細やかさは、ある意味「女性らしい」と言えるのですが、それは儚げで壊れそうな女性らしさではありません。作者から溢れ出るエネルギーが行き場を求めて分散し、その集合体を一つの作品に練り上げた印象で、そこからは“現代の女性像”が感じとれます。時代の変化とともに、昨今の女性は強くなったと言われています。しかしそれは、男性のもつ一本筋の通った強さとは別物です。様々な要素が絡み合い、絶妙なバランスで成り立つ“現代の女性の強さ”を、多くの作品から感じとりました。
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