武蔵野美術大学
平成28年度 武蔵野美術大学 卒業・修了制作展
書影
- 上原 愛美
- 基礎デザイン学科
小説を読む時、まずそこには記号としての言葉があります。しかし読み進めるうちそれらは薄れ、やがて作中の虚構の景色が広がっていくと思います。読書とは、理性的でありながら感情的である、曖昧な体験だと言えるのです。
これは小説の全文を用いたコンクリート・ポエトリーを、シルクスクリーンで刷った作品です。コンクリート・ポエトリーによって小説の形式を解放された言葉たちは、その小説をイメージした抽象的な図像へと溶けていきます。おびただしい量の言葉たち、その一粒一粒が、ひとつの大きな物語の影を編み上げているのです。
言葉はただの記号にすぎません。しかし言葉が見せる風景は、言葉を得たものしか味わうことのできない特別なものです。それは、ともすれば現実より生々しく、鮮やかな世界なのかもしれません。