私たちの周りは、音や温度や匂いなど様々なもので溢れている。同じ場所であったとしても、同じ環境や体験は二度とない。一時もとどまらず変化し続ける自分と自分以外のあらゆる「他者」との関係は、自ら意識を向けなければ見落としてしまいがちであるが、「他者」と向き合うのを忘れることは、至極もったいないことではないだろうか。

都市の時間の流れはとても速く、私たちはその流れに置いて行かれないようにと立ち止まることを許されない日々を送っている。それでも、何かと出会い対峙する時間や体験を大切にしたい。そんな向き合いの場としてのギャラリーを設計した。

中目黒の斜面地にある敷地は、上下に二本の接道を持つ。この二つの道路を繋ぐ道のような建築を目指した。ギャラリーは内外三本の動線から成り、それらの動線は視線的に交わりながらも、物理的につながることはない。各展示空間は部屋ではなく、あくまで道としてその連続の中に存在する。

このギャラリーの展示物は作品であると同時に、それが置かれている環境そのものである。森を散策するように道を辿り、まずは目の前の作品と向き合う。そしてやがて、それが置かれている環境や自身の空間体験に気が付いていけばいい。

普段意識せずあたりまえに受け取る「他者」の存在を確認し、一つ一つ自身の体験として経験に置き換え見つめてみること、それは或いは自己との対峙にもなり得るのかもしれない。