いまここに存在しなくても、私を形作ったものがある。

それらは日常では息をひそめているが、何かをきっかけに記憶の糸がたぐり寄せられ、まるで数分前の出来事のようにその瞬間に引き込まれることがある。

この作品は、私の原風景である気仙沼の海をモチーフに、触った地点から波のように一つ一つの板が連動する仕掛けになっている。

触れて動かす体験をきっかけに、自分自身の記憶を呼び起こす小さな第一波が発生する装置を作ろうと思った。

そして、自分の手から作り出される波は、一つの出来事として留まらず次の出来事に連鎖し、確かにいまここにいること、この世に存在している証であること、を感じて欲しかった。

それと同時に、私自身にとってこの作品は、新しい波を作り出すという決意のあらわれでもある。