一旦長期記憶に記銘された記憶は一生消えないらしい。もし消えたとすれば時間が解決した説、上書き保存されてしまった説、そして記憶を検索する手がかりがない説のどれか。
3つ目は多分嘘だ。記憶を検索する手がかりなんてそこら中にある。音楽、映画、香り、本、世の中どこを歩いても何をしていても感覚が過敏に働き苦しむ仕様になっている。勝手に掘り返された記憶は行き場をなくし嫌な身震いをさせられる瞬間になったり、枕を濡らさなくてはならない夜にさせられたりする。高い香水の香りも鮮やかな映像も美しい文章も時には容赦のない凶器になるのだ。
これらが人を苦しめられるなら写真ではどうだろう。記憶は自由に操作が出来ない。人間であることのデメリットだ。故に寂しさは永遠に消えないことを踏み倒していかなければならない。
どうぞ切なくなってください。そして好きな人に会いに行くもよし、会いに行けずに一人で泣くもよし、甘いショートケーキを食べるもよし、美味しいお酒を浴びるように飲むもよし、クラブにいって乱れるもよし、何もなく帰るもよし。全治一晩の心の傷がこの写真のせいでありますように。良い夜を。