東京造形大学
2017年度 東京造形大学 ZOKEI展
山の星
- 中村 未有
- 彫刻
大学の4年間では様々な表現媒体に触れ、自分が今やるべきことは何かわからずに手を動かすよりも考え込んでしまう時間の方が長かった。裸婦を塑像するということは、人体観察からわかる空間、形の構成や全体のバランスを汲み取るデッサン力を鍛える訓練であったが、見て得た物事が同じそれとして別の素材で現れてくるその工程そのものがが面白かった。観察という行為が何か心の中が埋まるような一体感があった。評価されるのは残ったものなので講評でのプレゼンには悩まされた。
制作において重要なのは形の正確さ、形からなる主張であると思いつめていた。自分の中で理想の形が先に出来上がってしまい、制作自体に憤りを感じるようになった。この作品は本来の制作に立ち戻りたく試みた作品である。無理に細部を作ろうとせず、モデルから受けるイメージにまかせ粘土に形を残していくよう心がけた。足が大根のように太くてまっすぐにしたのはそのためだ。塑像から石膏に起こすまで3ヶ月、その後着色するまで3ヶ月の間が空いた。
粘土の行程から離れ、形が客観的に見えてくると、今までになかったイメージが浮かんできた。像は墨汁と紅茶染めで着色した。表面に付着する色と素材に染み込んでいく色は奥行きを出し、木々の隙間から差す月明かりだけを頼りにその存在が確認できるような不確かさを与えた。顔や鎖骨に現れた心棒は削らず残すことは己の思考を残すことであり、中心のない質量のない存在を表す。
タイトルの「山の星」は夜の暗闇のイメージを与えると共に自分が経験してきた物事を、ある範囲としてたとえ、その中の一点という意味とした。