卒展レポート

大阪工業大学

第9回 大阪工業大学 工学部 空間デザイン学科 卒業作品展

ジャパン・オリエンタリズム

ジャパン・オリエンタリズム

小林 史佳
建築歴史文化研究室

人間の世界観の構築は、実際の経験や体験は少なく、圧倒的に多数の情報によってイメージされる。ネット社会になった昨今、この現象は加速しているといえる。

ところで近世の日本は、長崎などごく一部で外国人の出入りを許したが、ほとんどの地域への出入りはできず、事実上の鎖国状態にあった。したがって、近世期、欧米人にとって日本はごく少ない情報によってしかイメージできなかったのである。この現象は幕末・維新に変化するが、それでも日本を訪れる欧米人の数は限られており、欧米人は彼らのみた日本の情報に頼ってしか、知り得なかった。それでは幕末・維新期に欧米人は日本の何を情報化し、評論し、イメージしたのか。本論の射程はこの部分にある。

具体的には、幕末維新期に日本にやってきた欧米人の日本に対する評価、日記、航海記などの日本語訳された刊本約150冊を参考にする。

その結果、よく似た内容のものが多く、分類することが可能であったので、今回は景観などに注目し、「家屋」「自然」「神社」「屋敷・城」「海から見た景色」「高所から見た景色」「街並み」「街道」の八種類に分類した。さらに時代的な変化として維新前・維新後に分類することができた。維新前では日本に対して良い評価が多いのに対して、維新後には日本に対してよくない言説が見られる。もちろん維新後の日本は脱亜欧入を目指していたので、維新前の印象とは随分変わっていただろうが、あまりにも違いすぎる。

すると以下のような点に気づく。その一つは近世期の日本のイメージの多くが、同じようなイメージとして描かれている点である(牧歌的ユートピア)。もう一つは欧米人の書いた維新後の日本のイメージである。これは三者三様あるが、よかれ悪しかれ、予めもっていた日本イメージとは異なることを記述しているものが多い。

彼らは日本に来る前から、ある程度の情報をもっていて、その情報で各自が日本に対するイメージを膨らましていた結果、同じような日本イメージを確認する作業を行ったと考えられる。これは、まさに日本版オリエンタリズムであるといってよかろう(ジャパン・オリエンタリズム)。オリエンタリズムとはE.D. サイードの提唱した概念であり、人は情報が多ければ多いほど、他者と自己とを比較するとともに、実際の現場にいっても、情報を優位におくことによってそれを評価し、結果的に現場を軽視する姿勢が表出する、というものである。今回の研究でも、同じような日本が描かれていることから、ジャパン・オリエンタリズムがそこにあったといえよう。

情報がイメージを作り、そのイメージから取りこぼれるものは、見なくてもよくなり、最終的には見えなくなる。初期の日本イメージはそんな思考回路が働いたのだろう。今後は今回の解析をより精緻に行うことで、現在も続く日本人の「欧米憧れ主義」の根源がこの頃に構築されていったであろうことを解明することにある。

(堀木エリ子賞)

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