大阪工業大学
第9回 大阪工業大学 工学部 空間デザイン学科 卒業作品展
受聴環境を調整するための耳周辺における集音特性に関する研究
- 平舘 勇馬
- 構造デザイン研究室
1.研究背景
コンサートホールでは、各ホール・座席で演奏の聴こえ方が異なると言われている。これは、実測調査から明らかになっており、今日ではコンサートホールの音場改善のための研究や技術の発展に関しての事例が多く見受けられる。しかし、それらはコンサートホール内の音場を座席間で平均的に向上させるための研究や技術が主であり、個々の受聴者の“preference” に応じた受聴環境を獲得するための研究は見受けられない。従って、本研究では受聴者の耳周辺の音場の物理特性を制御し、“preference”に応じた受聴環境を獲得するためにイヤーピースの耳周辺の集音特性についての知見を得ることを目的とする。
2.パラメータの設定
ステージ上で発せられた音が受聴者の両耳に達すると、受聴者は3つの性質に大別される要素感覚を知覚する。この中の質的性質である音の粒立ちと時間的性質である残響感に着目する。受聴者位置に到来する音は、直接音・初期反射音および後期反射音に分類されるが、このうち音の粒立ちの評価には前者が影響し、残響感には後者が影響する。また、音の粒立ちと残響感には相互作用が成立しており、音の粒立ちもしくは残響感を制御することができれば両者のバランスを受聴者の“preference” に応じて調整することができると考えた。音の粒立ちと残響感の評価に影響する物理量である直接音、初期反射音および後期反射音を対象として、音圧レベル、周波数および音の到来方向をパラメータとし耳周辺の音場を調整することにした。
3.実験
図のイヤーピースを基本形とし、放物曲面部の形態を変化させ、複数のイヤーピースを作成した。これらのイヤーピースの形状による集音特性の違いについて明らかにするために音源を純音とする場合、ピアノ音を用いて作成した合成音とする場合で実験を行った。
4.実験結果
実験により、投影面積の形状により集音効果の差異があり、耳周辺に面積を持つことが集音効果を高めることになること、外耳道入口から面積までの距離が長くなるほど集音効果が低下すること、放物曲面に孔を開けても集音効果にほとんど影響を及ぼさないことが明らかになった。また、側方からの集音のみでも弁別可能な音の集音ができることがわかった。
5.結論
本研究より、イヤーピースを装着することで直接音の集音が可能であることがわかった。音環境を評価する指標である要素感覚は、一つの物理量に依存する独立した指標ではないため、直接音の制御で個々の受聴者の“preference”に応じた受聴環境を獲得できると考えられる。しかし、本研究から得られたデータのみでは直接音の制御をするには足りないため、受聴者の“preference”に応じた受聴環境の獲得のためには今後も実験を進める必要がある。
(論文賞)